ふらっと「店長がバカすぎて」を読んでみて

脳ある鷹は爪を隠す 能無しの鷹は爪を剥き出しにする 私はどっち?

『店長がバカすぎて』――それは、吉祥寺のとある書店を舞台に繰り広げられる、まるでティーパーティーのような騒動劇。
書棚の間を忙しく駆け回るのは、契約社員・谷原京子、二十八歳。薄給に悩みつつも、書物と向き合う日々をこよなく愛する気高き淑女でございます。けれど、彼女の心を静かに乱すのは、名ばかり勇ましき店長・山本猛。その“バカすぎる”所作には、つい紅茶の茶葉が吹きこぼれるほど驚かされてしまいますの。
朝礼は内容のないおしゃべり、しかも何年も前の自己啓発書に心酔し、まるで時代遅れのティーセットを披露するかの如し。お客様からのクレームも日常茶飯事、山本店長の無神経な微笑みにイラつきながらも、なぜか誰も彼を見捨てられない――まるで、“不思議と憎めないスコーンの割れ目”とでも申しましょうか。
「今度こそ辞めてやる!」と心で叫びつつ、結局書店に戻ってしまう京子様。その姿は、人生という長編小説の一頁のように、可笑しくも切なく、美しいものですわ。
この物語、実は全国の書店員様方から喝采を浴び、2020年本屋大賞にもノミネートされた名作でございますの。作者・早見和真先生は、2019年に本作を世に送り出し、2022年には“新章”まで発表されたのですって。京子と山本店長、そして武蔵野書店の仲間たちが織りなす人間模様は、読む者の心に、アールグレイの芳香のごとく、じんわりと沁み入るのです。
「紅茶一杯は、想像の旅の始まりでございますわ」――まさに本書も、読者の皆さまを“書店という小宇宙”へと誘う、優雅な物語のティーカップでございます。
店長がバカすぎての感想

そのストレートなタイトル、そして様々な書物を扱う書店様達の葛藤、非常に興味を持ち、読書のお供にお餅と一緒に購入することを決めました

まず最初に申し上げておきますが、この作品は店長様に対して、ただ罵倒を浴びせるような内容ではございません。たしかに、登場人物たちが時に強い言葉を投げかける場面も見受けられますが、実際のところ、店長様は少々空回り気味ではあれど、常にお店やスタッフのことを思い、前向きに行動なさっている方でございます。それゆえ、わたくし自身は決して嫌悪の感情を抱くことはございませんでした。
そして、物語の中心となるのは谷原様。店長様のみならず、なかなか折り合いのつかないアルバイトの方々、さらには理不尽な態度を見せるお客様方と、日々積もってゆくストレス。その鬱憤が、店長様の的外れな発言によって爆発してしまい、冒頭のような辛辣な言葉が飛び出すのも無理からぬことと存じます。
それでも、この物語には、人と人とのご縁や、心の支えとなる書物への想い、人生の中で立ち止まり葛藤する女性の姿など、共感を覚える場面が数多く散りばめられております。
近年では、「お仕事を辞める」ことが決して逃避ではなく、自らの選択肢のひとつとして受け入れられるようになりました。谷原様のように、時に涙を流しながらも堪え忍び、迷いながら歩みを進める姿は、止まることもまた選択肢であると示してくれるのです。
しかし、最後まで揺るがないのは「本が好き」という純粋なお気持ち。面白いものは素直に面白いと認め、合わないものははっきりそう言えるご自身の感性の強さ――わたくしも気付けば、大福餅を食べる手を止めて夢中で読みふけっておりました。
果たして、店長様は本当にただ他者を困惑させるだけのお方だったのでしょうか? それとも、実はとても聡明で、ピエロ役を演じておられたのかしら。この曖昧さこそが物語の面白みであり、早くも続編を手に取りたくなる衝動に駆られております。
それでは、本日はこのあたりで失礼いたします。